この記事では、2024年秋ドラマ『全領域異常解決室』のエンディング曲となっている、TOMOOさんの『エンドレス』という曲について、歌詞の意味を考察していこうと思います。
昨今のJ‐POPでは様々な音が入っていて賑やかな曲が多い中、この曲はピアノとギター二本のみというきわめて最小限の楽器によって音が作られている楽曲です。
また、本格バラードで歌詞も心に刺さるような歌詞のためドラマで『エンドレス』を聴いて、感動した方も多いのではないでしょうか。
この記事では、そんな『エンドレス』という楽曲の歌詞を私なりに考察していこうと思います。あくまで個人的な感想ですので、この記事を読んでそこからみなさんなりの考察を上乗せしたり、全く異なる捉え方をすることも大歓迎です。TOMOOさんの楽曲は深いので、人によって解釈は異なると思います。
一例としてこんな解釈もあるんだ、と思いながら読んでもらえたら幸いです。
1番Aメロ
たとえるなら二つのリボン 結び合わせないままでもいい
しわくちゃにもならずにただ それぞれ螺旋を描いて
TOMOO, 『エンドレス』より
この『エンドレス』は遺伝子の二重螺旋構造から着想を得て作られた楽曲とインタビューでTOMOOさんが述べています。
1番のAメロではリボンが螺旋を描きながら続いていく様子を用いて、愛しい人との関係について歌われています。
二つのリボンを結び合わせないままでもいい、というのは二人の関係がこれ以上発展も収束もしなくていいという意味だと思います。2本のリボンそれぞれが「私」と「あなた」を、結びあうことが二人の距離が近づくことを表しているのではないでしょうか?
愛しい人、大切な人と距離が縮まらずに関係が続くことは生きていれば何度も出くわす出来事だと思います。
など。
この曲にはそんな関係性が螺旋を描くように「エンドレス」に続いてもいいのではないか?というメッセージがはらんでいると思います。
このようなメッセージを「遺伝子の二重螺旋構造」というものから思いつくのには驚きが隠せません。また、表現一つとっても「変わらない関係がそのまま続く」ということを「螺旋を描く」というような比喩で落とし込んでいるのもさすがの一言です。直接言わずに比喩を用いて暗に表現する、日本語のポテンシャルを最大限生かしたような歌詞に引き込まれますよね。
1番Bメロ
あのね 夢見てるのは
誰も知らない景色をあなたと並んで見ること
海辺でも朝日でも 夜更けでも木立でもいい
叶うでしょうか
TOMOO, 『エンドレス』より
Bメロでは「私」の本心が見え隠れしています。
本当に夢見ているのは、ずっとこの関係が続いていくことではなくあなたとともに様々なことを経験していくこと。
それをこの曲では「誰も知らない景色をあなたと並んで見ること」と表現しているのではないでしょうか。
「誰も知らない」という描き方は、「私」と「あなた」だけが知っている景色であるということを暗に示しています。
二人だけの思い出を作りたい、そのような関係になりたいという願いが切実に表現されている歌詞ですね。
並びたてられている景色が
- 海辺
- 朝日
- 夜更け
- 木立
というチョイスになっているのもTOMOOさんらしさを感じます。
美しくてきれいな景色ではありますが、その一方で幻想的でなかなか見ることができない景色とまではいかないような景色。海辺や木立は行こうと思えば行けますし、夜更けや朝日も見ようと思えば見えますよね。
でもそのような日常のちょっとした景色が、誰かと一緒に見ることで唯一無二の景色に感じられるような気持ちに近いものを私は感じます。
最後の「叶うでしょうか」という言葉から、それが実現しなさそうなのも切ないです。
1番サビ
愛しさの陰に隠れた痛みと我儘を
全部飲み込んでもまだ優しい気持ちになれる
TOMOO, 『エンドレス』より
サビは切なさとそれでも愛する気持ちが詰まった一説になっています。
「愛しさの陰に隠れた痛みと我儘」は誰しもが共感できるのではないでしょうか?
誰かを愛しく思うほどに、それに比例して痛みや自身の我儘な気持ちが溢れ出していってしまうことはよくあると思います。
愛しい人に会えない痛みだったり、結ばれない苦しみだったり、もっと近づきたいという我儘だったり、その我儘からその人を不幸にさせるようなことをしてしまいそうになったり…
主題歌として選んでいただいた「全領域異常解決室」のドラマでも、この愛しさの陰にある黒い感情がテーマとして取り上げられています。
愛しく思うだけで終わることのできない人の心を忠実に再現した歌詞になっていますよね。
しかしながら、そんな感情を「全部飲み込んでもまだ優しい気持ちになれる」と歌われています。
このような黒い感情を感じたとしても、それでも愛しさが勝ってあなたに対して優しくあれる。それほどまでに「あなた」を愛しく思っているという姿が描写されていると思います。
この歌では、いろいろな裏に隠れている感情をひっくるめても愛しく感じるような、そんな究極の愛について表現されているのではないでしょうか。
ここまで深い愛を2行ほどの言葉だけで表現してしまうTOMOOさんの表現力には脱帽です…!
満たされるよりも永く 触れるよりもたしかに
透き通る声をきいていた
雨上がりのあとさき
TOMOO, 『エンドレス』より
「満たされるよりも永く」「触れるよりもたしかに」この歌詞は日本語が美しすぎます…
先ほどの歌詞に続いて、究極の愛というものを表現した歌詞に感じます。
満たされるよりも永く、というのは一見矛盾に聞こえますよね。
満たされているのだからそれ以上は普通はないはずです。あなたに満たされている、その時点でゴールのように感じますが、満たされるよりも永くなのです。
すなわち、満たされるという状態を超えたさまが表現されているのです。「満たされている」という状態をさらに超えるような表現を初めて耳にした時、衝撃を覚えました。
同様に「触れるよりもたしかに」という表現もすごいです。この後に続くのが「声をきいていた」なので実際には触れていないのでしょう。ですが、あなたのことをずっと思っているからあなた自身に「触れる」よりも確かにあなたを感じることができている。「私」の気持ちの深さが想像できます。
サビの最後には情景を想像させるような「雨上がりのあとさき」という言葉が歌われています。
雨上がりの前後ということだと思いますが、なんとも絶妙な風景描写に感じます。
雨上がりと描かれているので、一時は雨、すなわち悲しいことがあったのかもしれません。
一方であとさきなので晴れていたこともあるわけです。
晴れでもあり雨でもある、中性的な情景を最後に持ってくることで、聴く人によってポジティブにもネガティブにも感じられるのではないでしょうか?
実際に私もこのフレーズを聞くたびに思い描く情景は異なっていて、感じる感情も少しずつが違います。何回聴いても様々なことを感じるこの曲の凄さはこのような部分の影響もあるのかもしれません。
2番Aメロ
たとえるなら描きかけの絵 それはずっと出来上がらないまま
重ねた線 塗られない色 それでも無性に焼き付いて
TOMOO, 『エンドレス』より
音程が変化している
ここから二番に入っていきます。
歌詞とは関係ないのですが、まず初めに言いたいのは2番では少し音程が変化しているという点です。
例えば「描きかけの絵」という部分は、1番では最後は音が下がっていましたが2番では音が上がっています。同じく「塗られない色」の部分も音が上がっています。
本当にちょっとした差なのですが、これによって二番ではさらに壮大さが感じられていて、このような細かな工夫がすごいです…!
歌詞考察
では歌詞考察に戻っていこうと思います。
2番では「描きかけの絵」が喩えとして用いられています。
これは言うまでもなく完成しない、結ばれない二人の関係の比喩ですね。
「重ねた線」というフレーズからは、同じことをずっと繰り返しているさまが想像できます。同じところにずっと線を重ねていて一向に進展しない関係性を表しているのではないでしょうか。
「塗られない色」というのも関係が進展しない様子を描いていますね。ずっと線が引かれているだけの、色が塗られていないモノトーンの関係性。二人の切ない関係性が本当に見事に比喩で表現されていて、心に刺さります。
そんな関係性でも「無性に焼き付いて」いるところがさらに切なさに拍車をかけています。未完成の絵のような関係性だとしても、決して決して忘れることができない。無性にずっと心に残ってしまう。「私」の思いの強さがひしひしと感じられます。
2番Bメロ
あなたのいる世界は
捨てたものじゃないから
忘れたくないことばかりです
TOMOO, 『エンドレス』より
Aメロで比喩を用いて関係性の切なさを表現していましたが、一転してBメロではストレートな言葉で表現されていて、このギャップで感動が加速します。
どんなに私と結ばれることがなくても、あなたのいる世界は捨てられない。捨てたものじゃない。それほどまでに「あなた」は大切な存在なのでしょう。
「忘れたくないことばかり」という表現がまた良いです。忘れられないだけでは終わらず「忘れたくないこと」ばかり。私が自然と忘れることができないのではなく、意志を持って忘れたくないと感じている。
普通の恋愛ソングとは思いの強さが一線を画しています。
さらに、この「忘れたくないことばかりです」の部分だけ丁寧語が用いられている点も見逃せません。
この部分だけ丁寧語になっていて、曲の中でもこのフレーズが耳に残ったと感じた方も多かったのではないでしょうか?
丁寧語によってほかの部分と比較しても強くメッセージが感じられるような気がします。「忘れたくない」という意志の強さがさらに強調されていて本当にさすがです。
あのね 夢見てるのは
一番嬉しいことが そう 誰かの幸せ
あなたの幸せになること
TOMOO, 『エンドレス』より
この部分にこの曲のもっとも伝えたいメッセージがあるように感じます。「一番うれしいことがそう誰かの幸せ、あなたの幸せになること」という部分です。
サビで歌われている「愛しさの陰に隠れた痛みや我儘」というものは、私が幸せを感じるための要素です。
ですが、そもそも一番うれしいことが”あなたの幸せ”になればいいのではないか。とTOMOOさんは問いかけているのではないでしょうか。
一番うれしいことがあなたの幸せになれば、どんなに自分が苦しくてもあなたが幸せなら嬉しく感じるはずです。
自分の幸せを一番に考える自分中心の考えではなく、あなたの幸せを一番に考えることができたらなんてハッピーなのでしょうか。これは考えさせられるメッセージですね。
実際のところ、他人の幸せが自分の幸せに感じられるようになるのは難しいです。それこそこの曲で語られているような深い愛情がなくては成り立ちません。一方でそこまで他人を思えるようになれれば、それが最善の関係性のように感じます。
このように考えると、この考え方は正解の一つのようにも感じられますね。
2番サビ
愛しさの陰に隠れた痛みと我儘を
全部飲み込んでもまだ優しい気持ちになれる
抱きしめるよりも近く 語るよりもたしかに
つらぬいた声をきいたいた
雨上がりのあとさき
TOMOO, 『エンドレス』より
前半部分は1番サビと同じ歌詞が続きます。
ただ、歌詞が同じといっても2番をはさんだ後だと感じ方が違ってきますよね。
1番ではどちらかというと結ばれないことを悲しく思いながらも歌っているような感じでしたが、2番では心からそう思って歌っているように感じます。
全く同じ歌詞でも2番を通すことでここまで感じ方が変わるのは正直魔法のようです…
後半部分は少し歌詞が変わっています。
「抱きしめるより近く」「語るよりもたしかに」は1番と同様に究極の愛しさというものを表現していますね。
抱きしめるという恋愛のゴールのようなものよりも近く、語り合う関係性よりもたしかに。本当に日本語一語一語のセンスが光っています!
「つらぬいた声」という言葉も、1番と比較して強くなっているような感じます。1番では「透き通る」と体を透き通るような気持ちの良い声のイメージでしたが、2番では「つらぬく」ような刺さってくる声。形容詞のの度合いが強くなっていて、強い思いがより一層感じられます。
最後のフレーズ
たとえるなら二つのリボン 結び合わせないままでいい
並んでただ続いていく 螺旋を描けたなら
TOMOO, 『エンドレス』より
盛り上がってきた今までから一転、またピアノ演奏のみの静かな曲調で「エンドレス」は終わります。
1番Aメロと同じ歌詞のようですが少しずつ歌詞が違っています。
1番ではまだ関係性が進展しないことを嘆くような気持ちのため、自分に言い聞かせるように「螺旋を描くような関係もいいではないか」と歌っているように感じます。一方で最後では「螺旋を描けたなら」と螺旋を描くような関係性が理想と感じているように感じます。この曲を通して「私」は螺旋を描くような関係が理想という結論に行き着いたのかもしれません。ある意味では決意のようにも聞こえる言葉になっています。
今までもいくつか触れてきましたが、細かい部分で工夫を凝らしているこの曲の歌詞が本当に凄いです。
【補足】螺旋に込められた思い
この曲では「螺旋」というものについて歌われていました。実はTOMOOさんは以前から「螺旋」という言葉に様々な意味を感じています。
この動、も興味があれば見てみるとさらに解釈が広がると思いますのでぜひ!TOMOOさんの考え方にハッとさせられます。
「エンドレス」ぜひ自由な解釈で!
最後まで読んでいただきありがとうございました。今回はTOMOOさんの「エンドレス」という曲の歌詞を考察してきました。本当に素晴らしい歌詞で、人との関係性について考えさせられる曲でした。
考察しながら、この曲は本当に聴く人によって解釈が異なるなと感じました。あくまで私の解釈は一例なので、この解釈にとらわれずにみなさんそれぞれ自由に解釈してもらえたらと思います。
ありがとうございました!
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