しばらくぶりに髭男から新曲が出ました。
「チ。」の作者である魚豊先生の映画『ひゃくえむ。』という陸上を扱ったアニメ映画の主題歌として書き下ろされたのが、Official髭男dismの新曲『らしさ』です。
疾走感あふれるメロディーと、何かに夢中に取り組んでいる人なら絶対に刺さる歌詞がすごい曲となっています。
リリース直後ながらSNSでは絶賛の嵐で、大注目の一曲です。
また、このタイミングでリリースされたということは、2025年に髭男が出演予定の「ROCK IN JAPAN(ロッキン)」「SUMMER SONIC(サマソニ)」などのフェスで披露される可能性も非常に高いです。ぜひ予習もかねて一度聴いてみてください!
今回はそんな『らしさ』の歌詞を私なりに考察・解釈していこうと思います。
良かったら最後までご覧ください!
それではよろしくお願いします。
1番Aメロ
誇るよ全部 僕が僕であるための要素を
好きだよ全部 君という僕の黒い部分も
恵まれなかった才能も 丈夫じゃない性格も
だけど大それた夢を ちゃんと描く強かさも
Official髭男dism, 『らしさ』より
ものすごくカッコイイイントロから始まったこの曲、Aメロでは主人公の「僕」の皮肉のような歌詞から始まります。
一見自分のいろいろな要素を認めて誇っているようにも聞こえる歌詞ですが、これは自分自身への皮肉であると思います。
誇っているにしては「恵まれなかった才能」や「丈夫じゃない性格」などという表現はしないと思います。
本当に誇っているというよりは、大きな夢を持ちながら才能もなく丈夫さもない、そんな自分を卑下しているのではないでしょうか。
成し遂げたいこと、理想の姿はあるがその姿に自分の実力が、能力が一向についてこない。
こんな苦い思いを経験したことがある人は多いのではないでしょうか。
そんな現状を嘆いているのがこの1番Aメロです。
焦るよいつも 足音の群衆が僕の努力を
引き裂いて何度 君という闇の世話になっただろう
オンリーワンでもいいと 無理やり付けたアイマスクの奥で
一睡もしやしない自分も見飽きたよ
Official髭男dism, 『らしさ』より
Aメロ、1番ではリピートされています。
私が特に心に残ったのは、「足音の群衆が僕の努力を引き裂いて」という部分です。
陸上の状況をイメージすると分かりやすいと思います。
走っていたら後ろから選手たちの足音が聴こえてくる。そして抜かれていく。そんな情景が私には浮かびました。
どれだけ努力しても負けてしまう。そんなことを表現した一節になっています。切ないですね。
そしてここで「君」という人物が登場しました。
「君」はこれから何回か出てくるのですが、結論から言うと「君」は「僕」の中のマイナスな感情を持つ部分だと思います。
具体的には「勝てない理由を探したり」「勝負から逃げようとしたり」「後ろ向きになったり」する自分自身のことなのだと思います。
最後のフレーズは対比がすごい歌詞になっています。
「オンリーワンでもいいと無理やり付けたアイマスク」が勝てなくても唯一無二であればいいという理想論だとすると、それに対して「一睡もしない自分」はきれいごとでは満足できない、勝てないと満足できない自分自身の対比になっています。
きれいごとでは終わらせない髭男のメッセージの深さが垣間見れる歌詞になっています。
イントロの疾走感
歌詞とは関係ないですが。この曲のイントロカッコよくないですか?
最近ではイントロを省略していち早く歌詞に移る曲のほうが流行る傾向にあり、長いイントロの曲は少ないですが『らしさ』は最近では長めのイントロだと思います。
トレンドに左右されず作りたい音楽を作る髭男の姿勢が感じ取れます。
また、このイントロのドラム、すごく難しいです。イントロに限らず『らしさ』はドラムが際立っている楽曲だと感じていますが、イントロのドラムから心をつかまれますよね。
そしてもう一つ注目してほしいのが、イントロに陸上の号砲(ピストルの音)が隠れているという点です。イントロから「ひゃくえむ」の世界観が表現されていて気づいたときは感動しました。
1番Bメロ
「現実的、客観的にみれば絶望的。
絶対的1位はきっと取れないな」
分かってる 分かっちゃいるんだけど
圧倒的、直感的に僕は 納得出来ちゃいない
Official髭男dism, 『らしさ』より
「」のセリフは、この後も数回出てきますが、「君」の感情なのではないかと思います。
つまり、心の中のマイナスな感情が「外から見れば勝てないのは当然だ」と言っている。
どうしても敵わない相手もいますよね。外野から見れば勝てないのはわかりきっている。それを言い訳にしようとする「君」と、頭ではわかっているけどそれでも負けたくない、諦めきれない「僕」が対比されています。
このBメロの歌詞で注目したいのは「○○的」という言葉が多用されているという点です。
「現実的」「客観的」「絶望的」「絶対的」「圧倒的」「直感的」とここだけでも6単語、○○的という単語が使われています。
同じ語尾を続けることで殷が踏まれて、リズム感が生まれる要因になっていると思います。
BメロではAメロのように刻むギターの音がなくなっていますが、その代わりに韻を踏むことで疾走感が維持されいています。
また、○○的は同じピッチ(音程)が続いていて、ここでも刻むリズム感が生まれています。
50%という曲でもそうですが、韻を踏んで少しラップ調を組み込んでくる楽曲が髭男で増えてきているように感じます。
ああなんでこんなにも面倒で不適合な長所を
宿してしまったんだろう
Official髭男dism, 『らしさ』より
少し楽曲の雰囲気が変わって、サビ前のこの一節は心の叫びのように聞こえます。
「面倒で不適合な長所」とは負けず嫌い、諦めきれない自分のことでしょう。
圧倒的で勝てない敵に対しても負けたくないという「不適合」な性格。
それでも短所と言わず長所と表現するところから暗に悪いところではなく、いいところなんだよというメッセージが含まれているようにも感じます。
サビ
らしさ そんなものを抱えては
僕らは泣いていた 笑ってた
競い合ったまま
大好きな事に全て捧げては
何度も泣くんだ笑うんだ メチャクチャなペースで
Official髭男dism, 『らしさ』より
ここからサビになります。
サビでは曲名にもなっている「らしさ」という単語が登場します。
この「らしさ」は、負けず嫌いの「僕」とマイナス思考の「君」のどちらも含めてらしさを表しているのではないかと思います。
サビでは葛藤しながらも頑張る主人公の姿を描写しています。
大好きな事に全て捧げて、という歌詞は何かに全力で取り組んでいる人にとってはすごく刺さる歌詞なのではないかと思います。
部活に取り組む学生や仕事に熱心に取り組む社会人など、いろいろな人に刺さる歌詞になっていると思います。
全力で取り組むからこそ「笑う」ことだけではなく「泣いて」しまうこともある。うまくいかないこともある。
気鋭ごとだけでは終わらせない髭男らしさが詰まった歌詞ですね。
このサビ、髭男にしては珍しく低めの音程のサビとなっています。J-POPで最もよく聞かれる部分であるサビが低めに設定されているのは、今回はいろいろな人に歌ってほしいという意図が込められているのかもしれません。
実際、この「らしさ」のラスサビは観客も一緒になって歌う部分があるので、歌いやすくていいですよね。
また、サビでもう一つ注目してほしいのが語尾です。
実はよく見るとサビ部分の語尾がほとんどア段で統一されています。
らし「さ」 そんなものを抱えて「は」 僕らは泣いてい「た」のように
ア段に語尾を統一することで、Bメロと同じようにリズム感を作り出しているのだと思います。
「らしさ」はリズム感、疾走感を出すために歌詞にもたくさん工夫が凝らされていることがよく分析してみると分かります。
間奏
これしかないから しがみついてたかったんだ
居場所が欲しかったんだ
Official髭男dism, 『らしさ』より
感想をよく聴くとここにも歌が隠れています。
ほんの数フレーズの歌詞ですが、メチャクチャ共感できる歌詞になっています。
自分にはこれしかない、と思って熱中していたことが私にはあるので、この歌詞に気づいたときは鳥肌が立ちました。
2番Aメロ
何度勝っても それはそれで未来は苦しいもの
ああまじでなんなの?
負けて負けて負けまくった時ほど
思い出話が 僕の歩みを遅めてしまうよ
過去の僕と君からの 最低のプレゼント
Official髭男dism, 『らしさ』より
「何度勝ってもそれはそれで未来は苦しいもの」「負けまくった時ほど思い出話が僕の歩みを遅めてしまう」というのは髭男の経験も踏まえた歌詞なのではないかと思います。
ボーカルの藤原さんはもともとドラマーで、ボーカルに転身したのではじめはいろいろと周りから言われていた時もあったそうです。そんな苦い思い出を振り返りながら描いた歌詞なのではないでしょうか。
また、髭男として売れ始めた後は後で、今までの楽曲を越えた曲を作らなくてはいけないというプレッシャーがかかっていたと思います。
それこそが「それはそれで未来は苦しいもの」ということなのではないでしょうか。
そして曲構成の話になってしまいますが、2番はAメロのリピートはなしになっています。これは髭男あるあるですね。
PretenderやイエスタデイのBメロのリピートが2番でカットされるのと同じように、このらしさも2番のAメロはリピートなしでテンポよくBメロへ移っていきます。
2番Bメロ
打算的で消極的な面は 僕を守る絆創膏
怖くてきっと剝げないな
分かってる 分かっちゃいるんだけど
プライドは新品のままで 白くふやけ痒がっている
ああどちらも僕で君だから
どちらも本心だからたちが悪いよな
Official髭男dism, 『らしさ』より
2番Bメロは対比が際立つ部分になっています
- 打算的で消極的な面
- 守りたいプライド
が対比されています。
負けないように勝負を避けようとする打算的で消極的な自分もいれば、勝負から逃げるなんてプライドが許さないと考える自分もいる。
そのどちらもが紛れもなく自分自身、「僕」であり「君」である。
深い歌詞ですね。
また、ここで絆創膏を比喩で持ち出すのが斬新で面白いです。普通ならここで絆創膏というたとえはなかなか思いつきませんよね…
Dメロ
「始めたのが遅いから」
「世界はあまりにも広いから」
「天才はレベルが違うから」
「てかお前が楽しけりゃいいじゃん」
ああうるさいな それでもなんか
君に負けてしまう日もあった
まあそりゃそっか ブレない芯や思想なんて 僕らしくはないや
でも今の僕はもう限界だ 君の言いなりになってたまるか
僕はやっぱ 誰にも負けたくないんだ
そんな熱よどうか 消えてなくなるな!
Official髭男dism, 『らしさ』より
「」のセリフは「君」のセリフだと思います。
「」の言葉、どれも言われたことがあるまたは自分に言い聞かせたことがある人は多いのではないでしょうか。
言ってしまいがちな言い訳が並んでいます。
そしてそんな言い訳を全否定するのではなく「それでもなんか君に負けてしまう日もあった」と寄り添ってくれるのがまたいいですね。
そして負けたくないという気持ちを再確認する主人公。
消えてなくなるな!と叫ぶように歌われていることで主人公の意志の強さが感じられます。
ラスサビ
らしさ そんなものを抱えては
僕らは泣いてた 笑ってた
競い合ったまま
大好きな事に全て捧げては
まだまだ泣くんだ 笑うんだ
位置についたなら さあ、本気で勝負だ
Official髭男dism, 『らしさ』より
髭男としては珍しく+1の転調でラスサビになります。
転調してキーが上がることでギアが上がって走るスピードがさらに早くなったように感じられます。
ぱっと見1番と同じ歌詞ですが「何度も泣くんだ 笑うんだ」が「まだまだ泣くんだ 笑うんだ」と変わっています。
いままで過去の話をしていたのに対して、まだまだという表現が入ることでこれからの意思のように捉えられます。
位置についたなら、という表現は陸上を想起させますね。
らしさ そんなものを抱えては
喜び悲しみ 不安期待 絶望絶頂 君と僕のものだよ全部
らしさ そんなものを抱えては
ああ 息絶えるまで泣くんだ 笑うんだ
「本当に良かった」 ああ 生きてて良かったな
Official髭男dism, 『らしさ』より
サビがもう一度繰り返されます。
ここはおそらく「らしさ そんなものを抱えては」の部分をライブでは観客が歌うような、掛け合いのような感じになると思います。
最後に観客と一体になって曲を作る感じがエモくていいですよね。
生きてて良かったな、という歌詞にこの曲のすべてが詰まっているといっても過言ではないです。ストレートな歌詞に心が揺さぶられます。
いいことも悪いこともすべて経験値、生きてて良かった。本当にいい歌詞ですね。
まとめ
今回はOfficial髭男dismの『らしさ』という曲について書いてきました。
フェスで大盛り上がり間違いなし&みんなで歌える曲となっています。
ぜひこれからもたくさん聴いてください!
読んでいただきありがとうございました。